前回、データ活用のためにITツールで収集(インプット)すべきデータは、データ活用の目的に則した必要最低限のものであるべきとお伝えいたしました。今回は、この「必要最低限」についてもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
とある製造業での「製品別の利益を把握したい」というデータ活用のテーマを例にあげて考えてみたいと思います(わかりやすくするため例を単純化して考えます)。製品別の利益を把握しようとする場合、最低限以下のデータが必要になるでしょう。
①製品別の売上高
②①の製品を製造するためにかかった費用
まず、②の費用は①の売上と対応している必要があります。受注生産で「一品もの」を製造している場合は、受注した製品の部品表と材料等の仕入金額を紐づけることができれば比較容易に製品別の利益を把握できるかもしれません。しかし、見込で生産した後にいったん製品在庫になり、注文を受けた後製品在庫から出荷する(売り上げる)場合などは、製造した時期と売り上げた時期の間隔があく場合もあり、②の費用を①の売上と対応付けるためのデータも必要になります。また、同じ原材料から複数の製品を製造する場合も同様です。製品別利益の把握は一見単純なことに思えるかもしれませんが、売上と費用が別々のシステムで管理されるケースもあり、売上と費用を対応付けるだけでも様々なことを考慮する必要があります。
また、どこまでを②の費用とするかという問題もあります。②の費用には、ある製品を製造するために使用した原材料など製品と直接対応付けできるものもあります。しかし、例えば同じ従業員が複数の製品を製造している場合、その人件費を②の費用として認識しようとすると、かかった人件費をルールに基づき複数の製品に割り振ることが必要になります。しかし、どのようなルールを設定するかで製品に割り振られる人件費が変わることもあるため、本来把握しようとしてる製品別の利益の妥当性が問われることもあります。
上記の製品別の利益のように、ITシステムからのアウトプットの根拠を精緻にしようとすればするほど、その分多くの種類のデータと計算のためのルールが必要になり、ITシステムの構造も複雑になってしまいます。一方で、データ活用の目的によっては、例えば②の費用を製品と直接対応付けできるものに限ってしまっても問題ないケースが多いことも事実です。データ活用にあたっては、アウトプットの精度の観点からも、収集すべき「必要最低限」なデータ(インプット)は何かを検討することが必要です。
IT導入と活用の勘所(その12)~
『アウトプットの精度を追求することが、必ずしも有効なデータ活用につながらないものと心得よ』