IT導入と活用の勘所(その10)~ITの成長~

コラム

 私はこれまで様々なかたちで企業のIT導入に携わってきました。導入をお手伝いしたITの運用が始まると、ITを利用する現場のユーザから様々な声が聞こえてくるようになります。『〇〇もできるようにしてほしい』『今回導入したITは〇〇の業務にも活用できるのではないか』などの声を聴くと、ITを導入する前の段階での仕様や運用方法の検討が不足していたのではないかと反省する一方で、嬉しく感じることもあります。こうした現場のユーザの声は、ある意味、導入をお手伝いしたITが現場に根付き、業務にとって必要不可欠になった証拠とも考えられるためです。
 一方で、ITの運用を開始しても現場のユーザからの声が聞こえてこないことがあります。それは、運用が順調で現場に何の問題も生じていないからではなく、導入したITが使われていないためであることがほとんどです。導入したITが現場で使われはじめ、導入効果が実感できるようになると、良い意味で現場に「欲」が生まれます。使い勝手をより向上させたい、また導入前は想定していなかった活用のアイデアが現場で生まれるなどです。そして、この現場からの要望やアイデアを実現させるため機能追加や追加開発が検討され、導入したITが拡張し始めることになります。

 私が以前勤務していた会社の得意先であった、ある会社の情報システム部長は
 『情報システム(IT)は「生き物」である』
とおっしゃっていました。導入したITが現場に根付き、現場の要望やアイデアを吸収して拡張する様は、あたかも生き物が成長するかのようです。ITは導入し、運用が円滑に進めばそれでおしまいなのではなく、「生き物」のように成長する宿命をもったものであるという認識が必要です。そして、限られた経営資源のなかでどこまでそのITを成長(拡張)させるのか、事前に計画することが望まれます。

IT導入と活用の勘所(その10)~
『導入後のITは成長しようとするものと心得よ』